パソ・ロブレス(カリフォルニア)
歴史
カリフォルニアにおけるワイン用ブドウ生産の歴史は、スペインの布教活動に始まります。1787年にはサン・ミゲル・アルカンジェル伝道所が設立され、後にパソ・ロブレスのワイン産地となる地域にワイン用ブドウをもたらしました。数年後、ゴールドラッシュで稼ぎ損ねた多くの移民たちが、ワイン用ブドウ生産を含む農業に従事するため南部に移動してきました。
これらの家族は何世代にもわたり、パソ・ロブレスにおけるワイン作りを担う生産者となりました。そののち、パソ・ロブレスは米国政府認定ブドウ栽培地域 (AVA) に認定され、上質なワイン生産を目指して、現在200以上のワイナリーと4万エーカーのブドウ畑が存在しています。
パソ・ロブレスはカリフォルニアで最も急成長を遂げている AVAであり、そのほとんどが小規模な家族経営の生産者です。1983年に設立されたある生産者は、ワイン生産地としてのパソ・ロブレスのルーツと、その独特のテロワールを表現するワインを造っています。テロワールは、歴史あるブドウ畑とパソ・ロブレス全体の土壌の独自性を表しています。
ミネラル感、フレッシュさ、果実味などパソ・ロブレスの本質は、このAVAを探求していると出会えるものです。2014年にはパソ・ロブレスに11の新しいAVAが誕生し、同地の本質をより特徴づけるものとなっています。科学的見地からも、これらのAVAは土壌、気候、地形学、降雨などあらゆる側面において特徴づけられるものです。誕生からわずか7年ですが、それ以上に長い歴史をもつこれらのAVAは、同地域の特徴を最も良く表し、理解するための新しい基準となっています。
多様性
パソ・ロブレスAVAは、地形学、気候、土壌、ワイン生産、ワイン用ブドウを網羅するのに見逃せないブドウ栽培地域です。AVA内に見られるさまざまな地形と生育環境によって、60種類以上のワイン用ブドウが栽培されています。
パソ・ロブレス西部の急斜面は、同地域のワイン生産の多様性をよく表しています。温暖な南向きの斜面から、涼しい谷間と風が吹く山頂を含むパソ・ロブレスのメソ気候は、冷涼な気候を好むブドウ品種だけでなく、成熟に温度を必要とするブドウ品種を生み出します。
アデレードのホフマン・ランチ・ヴィンヤードでは、他の地域よりも気温が10から15度低い谷底で、樹齢50年のピノ・ノワールの畑が微気候の恩恵を受けて栽培されています。また、そのわずか数マイル西のタブラス・クリーク・ヴィンヤードでは、晩熟であるムールヴェードル種が10月中旬にセラーに入ります。
ワイン産地は、特定のスタイルやブドウ品種によって定義されるのが一般的です。かつてカウ・ボーイに占められていたパソ・ロブレスは今や、独自のスタイルを突き進んでいるのです。この自由な取り組みは、創造性を生み、ワイン生産者たちにさまざまなブレンドで、異なるブドウ品種を試す機会を与えてくれます。
例えば、ラベンチャー・ワイナリーのヴィニュロンであるステファン・アッセオ氏は、ボルドーの原産地呼称制度(AOC)では実現できないカベルネ・ソーヴィニョン、シラー、プティ・ヴェルドをブレンドし、「パソ・ブレンド」と呼んでいます。この自由な発想によりアッセオ氏はパソ・ロブレスにワイナリーを開き、既成概念にとらわれない創造的な精神のよりどころとしています。
多様性もまた経験により形作られるものです。ティン・シティとその周辺にある都市型ワイナリーやクラフトワインのワイナリーでは、パソ・ロブレスというワイン生産地域について、ありとあらゆることを知ることができます。たった4ブロックの狭い産業テーマパークの中で、あなたは大胆な表現、伝統にとらわれないブレンド、さまざまな組み合わせのブドウ品種などワイナリーの独自性を見いだすことができるでしょう。
都市型ワイナリーでの経験はまた、革新性と創造性を生む拠点としてよく知られています。それぞれの哲学とスタイルをもった20以上のクラフトワイン生産者が手を取り合い、お互いに最上を目指して学び、習う機会を設けているのです。都市型ワイナリーは、パソ・ロブレスでの体験にコワーキングスペースを加え、世界的なワイン生産地域になるまでの過程を時系列で表現しています。

Wine Tasting at Lone Madrone, Lifestyle wine tasting, Paso Robles, California
パソ・ロブレスのワイン生産地域は、カリフォルニア州セントラルコースト沿いのサン・フランシスコとロサンゼルスの中間に位置しています。パソ・ロブレスは、カリフォルニアの他のワイン生産地域よりも昼夜の気温差が大きく、はっきりとしたメソ気候を示し、さまざまな種類の土壌と長い栽培期間があります。それはプレミアムワインや超プレミアムワインを生産するのに最適な栽培条件に恵まれた、ユニークなワイン生産地であることを意味しています。
この特徴はすでにご紹介したその他の側面に劣ることなく、多様性に富んでいます。花崗岩、堆積岩、火山岩、砂岩など、45以上の土壌性をもち、パソ・ロブレスAVAはカリフォルニア州で最大の石灰質ベースの土壌層があります。この土壌に見られる高い土壌pH値(7.4から8.6)は、カリフォルニアの他のブドウ栽培地域には見られないものです。地盤の隆起により、パソ・ロブレス西側の丘陵地帯には石灰質土壌が多く、深い粘土質土壌と比較的多い降雨量が相まって、灌漑補助をすることなくドライファーミングでワイン用ブドウを栽培することを可能にしています。
パソ・ロブレスの独特な栽培環境は、太平洋に近いことに大きく関係しています。その主な地域はテンプルトン・ギャップにあり、夏から秋にかけての午後、海からの涼しい風がパソ・ロブレスに吹き込みます。これは日中の暖かさを夜の涼しさに変えてくれる、いわば天然のエアコンで、バランスの取れたワインを作り出す秘密の気候条件なのです。
海からの気流と下降気流は、パソ・ロブレスAVA全体を冷却するのに役立っています。ワイン生産者は、日中の温度変化がワイン用ブドウの糖分の生成、タンニンの増加、酸の維持を助けることを認識しています。また、この地域で栽培されているブドウ品種の表情をさらに豊かにしています。
ブドウ品種
パソ・ロブレスで最も広く栽培されているのは、カベルネ・ソーヴィニョン、メルロー、ジンファンデル、シラー、シャルドネです。その他の赤ワイン用ブドウ品種は、プティ・シラー、カベルネ・フラン、グルナッシュ、ムールヴェードル、プティ・ヴェルド、などです。これらのブドウ品種はパソ・ロブレスにとって重要ですが、現在ではその他のブドウ品種と区別されています。カリフォルニアで最大の、フランス、ローヌ・ヴァレーのブドウ品種であるシラー、ヴィオニエ、ルーサンヌを栽培しているため、パソ・ロブレスは「ローヌ・ゾーン」と呼ばれています。
ブドウ品種の割合は以下の通りです。
- カベルネ・ソーヴィニョン(39%)
- その他赤ワイン用品種(16%)
- メルロー(14%)
- シラー (9%)
- ジンファンデル (8%)
- シャルドネ (5%)
- その他白ワイン用品種 (5%)
まとめ
パソ・ロブレスは、カリフォルニアで最大で最速の成長を遂げているワイン生産地域です。コントラストと多様性に富んだ土地であり、さまざまなブドウ品種とワイン造りを行っています。ワイン界の「西部開拓時代」をほうふつとさせ、流行や規制にとらわれない素晴らしいワイン造りを目指す、自由で革新性をもったワイン生産者が集まっています。
お礼
この記事を作成するに当たり、パソ・ロブレス・ワインカントリー協会のみなさまには大変お世話になりました。